「道満、椎茸もやってたんだ」
厨房の片隅で絹さやの筋を取りながら、他愛のない話をする。
他愛…というより、そもそも愛がない。
英霊とはいえ、ヒトが椎茸になるとは幼児の語る将来の夢の他で聞くことのない話である。更に言えば、「幼児」が「将来の夢」で「椎茸」を挙げることは限りなく低いように思う。
適当も適当な返しであったが、髑髏烏帽子は満足げに笑みを浮かべる。
「左様。それゆえ、今はこのように味わい深く」
今日はエミヤがちらし寿司を作ってくれるらしい。マシュは職員に呼ばれ、他の厨房組も外している。隣に座るのはキャスター・リンボ、蘆屋道満だ。
何の気まぐれか、それとも企みか、はたまた彼是3ヶ月シミュレーションルームへ連れていないことへの抗議なのか、大人しく「道満も絹さやの筋取って!」という雑な願いに応えてくれている。素直すぎて、一画減ってないかチラと確認してしまった。
絹さやのヘタを摘み折り、ゆっくりと引く。普段の姿からは想像できないからか、烏帽子姿による衣装マジックか一連の所作に美しさを感じる。
「確かに面影あるよね」
私は手にした絹さやで彼の指をさした。
度重なる呪詛の影響か、黒き神の顕現か彼の指は黒く染まり、そして乾涸びている。
それはまるで干し椎茸…
道満は私の意図を察したのか「ンンンンン」と小さく唸り、強制的に話を終わらせる。
「まぁ、そんな事実はなかったわけですが!」
コヤン(光)が弊デアに来てからというもの、うちのリンボはすっかり干し椎茸である。そんな話はさておき。
毎日料理をしていても、椎茸にはならないし卵の記憶も伝わってこない。
食材に感謝を、と頭では分かっていても、働き、作り、そして食べる日々のサイクルは心の余裕など生みようがない。
余裕のない心は言う。
この本、ごはんの本じゃないの…?

『リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い』をごはんの話とするならば、フレッシュミーティングは新鮮な出会いでも若い男との鮮烈な情事でもなく「生肉」なんじゃあないか。
食事がエロスだと言ったのは川島なお美だったか。サチエが猥談だと思っていることは全て食事、それもカニバリズムの話かもしれない。バイトもイートも比喩的表現じゃなく噛みつき、食べている。もはやすれ違いコントである。
2番目の夫のガスが食人行為を勧めてくるから最初の旦那食べたらハマっちゃったし、なんならガスのことも衝動的にやっちゃった☆だって「食べたくてたまらなくなること」があるでしょう?そんな話だ。
『蔵篠猿宿パラサイト』をごはんの話とするならば、その食材は地球上の生物なんじゃないか。
これは『異次元の色彩』のオマージュ『異時間の色彩』のオマージュだ。『異時間の色彩』では『異次元の色彩』は完全な創作ではなく本当にあった事件から着想を受けた物語で、あの生物はまだいるんやで…という話。宇宙からの色『カラー』が落ちたのは1箇所ではなく、それは日本にも…という世界観なのだ。
カラーというのは宇宙から飛来し、人の生命力や精神力を糧に成長する。汚染された周りの動物は奇形が進むため、ニホンザルは人の形をとるようになったのかもしれない。
「生命力を吸われた」者は色を失い灰色の石のようになる。その犠牲者を目撃した者もまた正気を失うのだ。そういえば、カラーは稀に実体化し、人間の肉を食すというが…リズ、まさかオマエ…
石の色が分からなかったはずの由香が不定の狂気「物や人への執着」を見せ始める。ハンミが最後、由香に一発こぶしを奮ってくれたらよかったかもしれない話だ。
偏愛を描いたはずが、ごはんの本と分類され「人肉も食べ物だな!」という結論を導きだす。
講談社文庫にも人の心ない人がいるのかもしれない。

妻が椎茸だったころ
中島京子
2016/12/15
亡き妻の残したレシピをもとに、椎茸と格闘する泰平は、料理教室に通うことにした。不在という存在をユーラモスに綴る表題作のほか、叔母の家に突如あらわれ、家族のように振る舞う男が語る「ハクビシンを飼う」など。日常の片隅に起こる「ちょっと怖くて、愛おしい」五つの偏愛短編集。
