『覚え間違いの数だけストーリーがある』
文庫の帯についた、宮部みゆき先生のコメントに心が震えた。
単なる覚え間違いと一蹴するでなく、「何故そのような間違いが起こったのか」を物語として受け入れてくれたのだ。
間違える方も事情がある。
この本の中で、司書さんが「ねじ曲がったクロマニョンみたいな本」をレファレンスするまで「ねじまき島」と思っていた…と言っていた。
私も同じ勘違いをしていたし、その原因は『ONE PIECE』である。しかし、この司書さんはまた別の理由を挙げるかもしれない。
そもそも「島」と「鳥」って似てるしね。
さて、『蜜蜂と遠雷』を『蜂蜜と稲妻』と間違える…という例があった。
そういえば、知人も『蜜蜂』ではなく『蜂蜜』と覚え間違いをしている人だった。
彼女は自信のある箇所以外は「ナントカ」で誤魔化す人なので、『稲妻』とは間違えない人でもある。いや、自信のある箇所も間違えているのだが。
「読みたいんだよね」と言うので、あぁそれならちょうど持ってるよと私はカバンから本を取り出した。
私が差し出した本は『ハチミツとクローバー』。羽海野チカ先生の名作だ。
そうじゃないと言う彼女に「なんでやねん。ハチミツといえばクローバーやろがい。遠雷の方は蜜蜂なんだよ」と応戦する。
分かっててもとりあえず出す。これが羽海野チカ原理主義者である。
ハチクロを読み、美大という場所を勘違いし、進学して同類を見つけるも本物に出会えない虚無を味わう者である。甘酸っぱい青春などあの場所にはないのだ。

『蜜蜂と遠雷』が文庫になったのは2019年頃。
何故、その時期に『ハチミツとクローバー』を持っていたのか…
それは当時発売されていた『3月のライオン』の最新刊(当時)を読んだ後だったからだ。
『3月のライオン』14巻。最後の文化祭だというのに、林田先生達に拉致られた先で出会ってしまうのだ。真山に、野宮に、修ちゃん先生に…!
彼らは桐山零に出会ったのではない。
私と出会ってしまったのだ。
そこから湧き上がる久しぶりにハチクロ読みたい熱。
そして本屋で見かけてしまった平積みされた『蜜蜂と遠雷』の文庫化フェア…
これはやっぱりハチクロを買えという神様の導き…!
そうして、このようなエピソードが生まれたのだ。
私が恩田陸を「思田睦」と間違えないのは、彼女が昔から「恩田陸の小説が好きで」と言っていたからだし、私が羽海野チカ原理主義者となったのは、彼女が「面白い」と貸してくれた『ハチミツとクローバー』を読んだからだ。
私は好きだと言った小説家のタイトルを覚え間違え、自身が貸した本で強火のツッコミを入れられる彼女にうっすらと笑いかけた。
「お前がはじめた物語…だろ…?」

100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集
福井県立図書館
2021/10/20
本の正確なタイトルは、なかなか覚えづらいもの。そしてうっかり間違って覚えたタイトルを文字通りに想像してみたら、とんでもなくシュールでおもしろすぎる事態になっていることもしばしば。 そんな図書館利用者さんの「覚え違いタイトル」の実例を集め、HPで公開しているのが、福井県立図書館の「覚え違いタイトル集」。 本書は、そのなかから秀逸な「覚え違いタイトル」を厳選し、「覚え違い」を文字通りに表したイラストを添付。そしてページをめくれば「正しい書誌情報」と「司書さんによるレファレンス」が現れて……という仕掛けになっています。 読者のみなさんはきっと、利用者さんの覚え違いに爆笑し、司書さんの検索能力に驚嘆することになるでしょう。 クイズ感覚でも楽しめる、公共図書館が贈る空前絶後のエンターテイメント、ぜひご堪能ください!
