異世界転生

僕は今、死後の世界にいる。
信号無視したトラックに跳ねられたようだ。
「まだ若いのに可哀想に」
白い服を纏った神々しい女性が現れそう言ったのが聞こえた。
「あなたにはこのまま次の命へ転生いただきます。是非、前世の知識を活かしより良い世界を創造ください」
そう手にしたリモコンのようなもののボタンを押すと、僕の足元が光り出したーー

気が付くと、僕は小高い丘の草原に寝転がっていた。眼下には見たことのない長閑な田園風景が広がっている。
まるでファンタジーの物語に訪れたようだった。

「これが…異世界転生…!」
きっと僕という英雄を待ち受けている冒険がここにあるんだ!僕はその町を目指して走りだした。

***
「審判の簡易化として記憶リセットの省略と死因による転生先選定を試験的に導入しましたが、モニターの方々からは苦情が相次いでいます」
「特にヨーロッパの田園地帯に転生いただいた方は第一声が概ね『こんなはずじゃなかった』だそうです」
ホワイトボードに貼り出した、様々なグラフを眺めながら女神は報告を聞いている。
「なるほど。下界の流行とタイミングが悪かったのですかね…」

「天界の効率化に加え、知識の蓄積でより良い世界になると思ったのですが…別の策を講じましょうか」

博士のロボット

その博士はいつもロボットを連れていた。

ある記者が尋ねた。
「いつも連れていらっしゃるロボットにはどのような役割があるのですか?」
「もう私も年ですからね。このロボットは私の健康を管理してくれているのですよ」
博士はそう言ってにっこりと笑った。

ある日、研究室で助手の1人が他のロボットをメンテナンスしていた。助手は博士の後ろにぴったりと寄り添うロボットに目をやり聞いてみた。
「先生、そのロボットもそろそろメンテナンスしておきますか?」
「ありがとう。気持ちだけで充分だよ」
「でも、先生の健康を守るならマメに手入れしておかないと…」
助手は心配そうに博士を見る。
「ははは。守るのは何も身体の健康だけじゃないよ」
不思議そうな顔をしている助手に、博士は「君には教えてあげよう」と話しはじめた。

数年後、博士は旅先の事故で命を落とした。不思議なことにロボットは博士が亡くなった瞬間に小さく爆発し起動を止めたらしい。

「博士の後を追うなんて素敵な絆じゃないか」
「博士の健康を守れなかったからロボットは壊れたのかな」
口々に騒がれる中、助手はある記者からのインタビューに答えていた。
「博士が亡くなった際に、研究室で小火があったと聞きました。これは博士の死と何か関係があるのですか?」
「あぁ、博士のパソコンが火を吹いた件ですね。ロボットが最後まで博士の健康を守った証ですよ」
そう笑う助手の傍らにはロボットが佇んでいた。

箱庭遊戯

「そういえば昔お母さんがトイレのタンクの上に色んなミニチュア置いてたよね」
久々に会った妹の話にふと思い出す。

母の遊び心が詰まった小さな小さな箱庭。
ある時はプラスチック製の氷の世界が広がり、ある時は小さな兵隊がジャングルから此方を狙っていた。
「そんなの作ってたねぇ。しかも結構頻繁に変わるんだよね」
「そうそう。でも、天地創造してる姿は見たことなくてさ。お姉ちゃん見たことある?」
「言われてみればないなぁ…私たちが学校に行ってる間に作ってたのかな」

母の世界は創造と破壊を繰り返す有限的な世界だった。生まれればそこには必ず終わりが待っている。
「世界が1つだなんて物足りないわ…」

もし私が神様なら、自分の箱庭の中に様々な世界をコレクションしておきたい。一つ一つの世界を覗けば、全く違う物語が繰り広げられている…なんて考えるだけで楽しそうだ。

「あ、お姉ちゃんって金魚鉢用にビー玉集めてたよね。たくさん持ってきてあげたよ」
「今、うちの金魚鉢にはビー玉しか入ってないんだけど…」
受け取ったビー玉の袋は下手すると殺人事件が起きそうな重さだった。
袋から一つを取り出し、陽にかざしてみる。
「この1つ1つに世界があれば私は母さんの箱庭に勝てる気がする」
ニヤリと笑い妹を見ると、彼女は「やべぇ。神が増えた」と声をあげて笑っていた。